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異色の組み合わせですが、やってみたかった。
「……」
「……」
いつまでも続く沈黙に、自分の判断の甘さを知った。
順平以外にはだんまりを続けるチドリという少女から少しでも何か聞き出したいと思った。すでにそれが無益な行為であることにうすうす感づいてはいるのだが、もう少し粘りたかった。
学校帰りに偶然見つけた彼を引き連れたのは淡い希望があったからだ。様々な面で自分の想像以上の力を見せてくれる彼ならば、何か打開策を見出してくれるのではないかと。
だが、落ち着いて考えてみろ。基本的に必要以上話そうとしない彼に会話を望むことがすでに考えが至らなかった証だ。取調べのようなことは私たちが同じことを何度もやっている。彼にもそれがわかっているのだろう、そういったことは無駄だと知っているから一切口にしない。
ならば彼に世間話でもしろと言うのか。やれと言えばきっとやるだろうが。
もう帰ろうかと彼に声をかけようとしたとき、チドリのベッドの脇においてあったスケッチブックが落ちてページが開いた。描かれているのはぐちゃぐちゃとした直線状のもので幾重にも重ねられた細長いシロモノ。それ以上の形容は美鶴にはできそうにない。
彼はスケッチブックをを拾い上げ、ゆっくりとそれを見た。
「月光館学園」
え、と美鶴が彼に尋ねようとする前に、口を開いた者がいた。
「……そうだけど、それが何」
チドリが睨み付ける様な目で彼を見ていた。
順平以外の者に自分から口を開いたのを美鶴が見るのは初めてだ。目を見開いてその様子を見ていると、彼はスケッチブックのページを繰りながら更に言葉を重ねた。
「ムーンライトブリッジ、モノレール」
「……」
「ポロニアンモールの噴水……あ、桜の木」
「これが……か?」
彼の手元をのぞいても、奇怪なオブジェのようなものが描かれているだけにしか見えない。
「……これは、映画館?」
「……」
「これって、何かいいことでもあったのか?すごく生き生きしてる」
「―――――!!」
チドリが息を呑んでいるのにも驚いたが、それ以上に彼に驚いていた。
奇怪な絵を見てそれが分かるだけでなく「生き生きしてる」だなどという言葉を言うことができるのが、分からなかった。
結局この言葉に大きく反応したチドリに追い出されて私たちは病室の外に出た。
どうしてあの絵に描かれているものが分かったのかと聞くと、彼は簡潔にこう答えた。
「感情が一緒に描かれているから、面白い」
答えになっていないように思ったが、なんとなくその言葉には納得してしまった。
―――――
直感勝負。
いろいろなペルソナを持っているってことは、そのいろいろな感情を知っているってことではないかと思えたので。
きっとチドリは奇怪なファッションに身を包みながらもどこかで「普通」に憧れていたんじゃないかな、と妄想。
普通に学校に行って、普通に遊びに行って……って。
順平とはじめに会ったのは映画館の前で、「見えないでしょ」って言ってたんだから対照にしていたものがあるわけで、描いていたものは何だったのだろうって考えると、まあ妥当なのは映画館なわけで。
チドリと主人公のからみが全くなかったのは寂しかった。完全に蚊帳の外だったし。
まあ、そりゃあ、チドリは順平の物語であるわけだけど。
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