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日常小話。
あ、これで特別課外活動部のメンバーは一応一通り書いたことになりそうですよ。
目の前のイヤホンマンが途中で本を閉じたのを見て、グローブの手入れをしていた真田も顔を上げた。
彼が読むのをやめたのは厚さからして半分を少し超えた辺りだろう。作品にもよるが山場を迎える最も面白くなる部分だ。
しかし本を閉じた後どうするかと思えば、彼は再び初めからページをめくり始めた。
「おい……まさか内容を忘れてしまったんじゃないだろうな?」
真田が軽く茶化したように言えば、彼はわずかに顔を上げて真田のほうを見る。だが軽く首を振って否定の意を示した後は何も言わずまた読書を再開した。
「何?じゃ、何でまた初めから……」
話を忘れたわけでないのなら、単に特定のシーンが好きだから、とか……?
真田が一人で首をひねっていると、読書を続けていた彼がわずかに眉をひそめて真田のほうを見つめているのに気が付いた。
ああ、これは面倒くさがっているのだな、と気付くのに時間はかからない。彼は普通の人が絶対に気にせざるを得ない事象などを平気で切り捨てることができる人だ。考えるときに必ず通る思考の海を、たいていの場合すっ飛ばす。わざとなのだろうか、それとも地なのだろうか。
しかし顔を上げているということは説明する意思はあるということだ。
数瞬待つと、イヤホンをとりながらぽつりと彼が答えた。
「この先は、読むのが面倒だから」
あまりに呆気ない答えに真田は拍子抜けした。
「面倒って、お前な……」
「物語としては、このシーンは物語の謎が最も深まるところ。そしてもうすぐ謎が解ける」
「あと少しでいいところじゃないか」
「でもこの後の話は、読みたいと思わない」
「……そうなのか?」
「だから読みません。ここで僕の中のこの『物語』は成立する」
それで充分だと言い切って彼は本を閉じた。ひょいとその本を投げ出しイヤホンを再びつけると、彼はソファの向こう側へと向かった。どこへ行くのかと思えばテレビをつけるだけのようだ。
真田はその様子を横目で見ながら彼の投げ出した本の表紙を見て、そして気が付いた。
そういえば、結構前からずっとこの本を読んでいるような……?
「おい」
真田はソファに戻ってきた彼に声をかけた。
「お前、その本……大分前から読んでないか?」
彼はうなずいた。
「その本、好きなのか?」
言ってから先程のやり取りを思い出し、おかしな問いであることに気付いた。
彼はもうその本には触れようとせず、イヤホンをつけたままでテレビの画面をじっと見つめていた。
「読みたければどうぞ。別にその本でなくてもいい」
彼は確かにテレビを見ているのに、彼は何も見てはいなかった。
彼は確かにイヤホンをしているのに、彼は何も聞いてはいなかった。
無駄なことを考えないように音楽を聴く。
思考をさせないために本を読む。
その目的さえかなえば何でもいい。
同じ音楽を聴き続け、同じ本を何度も読み直す。
彼にとってはそれで十分なのだ。
後に真田は彼が置いていった本をゆっくりと時間をかけながらも読み終えた。彼が物語として認めなかったところも当然読んだ。
読み終えた瞬間に、充実感よりもどこか寂寥感が芽生えたのは、物語のせいではないだろう。
―――――
本を読んでてもゲームやっててもそうだけど「終わりが見たいけどもったいないから終わって欲しくない」という感覚が常にどこかにあって。
で、彼はそれを実行してしまう人間。終わりを見ることなく物語は彼の中で永遠に続いている。決着をつけるという行為が嫌いだから、という感じで。「終わり」をどこかで恐れているというか。まあどちらにせよ彼にとって読書は思考をつぶすための「手段」に過ぎないわけでもあるのですが。うーん矛盾。
真田先輩はこう、単体の心の変化にはめっぽう強いというか、でも複数の人が絡むと弱いというか、そんなイメージがあります(訳わからないから