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自己紹介的意味合いが強いです。割とよくある名前の話。鳴海とライドウさん。
鳴海がライドウの本名を尋ねたのは、ふとした気まぐれだった。
尋ねられた少年はというと無表情のまま軽く小首をかしげて呟いた。
「……本名、ですか」
「そうそう」
「ライドウの名を継いだ時、それが私の名となったと思っていますが」
私がこの名を名乗ることに不服がありますか、と少年は淡々と話す。
「今は『葛葉ライドウ』とは私のことを指す言葉です」
「あー、いやそうでなくね……」
鳴海は自らの問いが軽々しく口にできるものではないことを知っていた。しかし一瞬の気の緩みと気まぐれによって発した言葉はもう戻せない。かと言って後に引くことこそ許されないように思えた。少年は鳴海が無理に話を中断しようとも全く気にすることはないだろうが、それに甘えるのも悔しいことではないか。
「『ライドウ』を名乗るようになる前に、ちゃんとお前につけられた名前があるはずだろ?」
「私に、つけられた」
ふむ、と少年は口元に手をやる。彼が考え込むときの癖だ。
「どれがいいですか」
「は?」
言葉を詰まらせた鳴海に少年は平然と言葉を続ける。
「そうですね。一番覚えやすいのは、『四番』ですが」
開いた口がふさがらない。
「待て。いくらなんでもそれは名前じゃないだろう」
「葛葉に拾われたとき『私につけられた』名ですが」
「そうじゃなくて」
「ご期待に添えませんでしたか」
表情を変えることなく少年は話す。
「他の名をご希望ですか」
「お前の本名って俺は言ったんだよ。生まれたときにつけられた、お前のための名前だ」
「生まれたとき、ですか」
少年はわずかに眉を寄せた。今まで淀みなく話してきたのに、ここにきて急に口ごもる。
「別に言いたくないなら気にしないから」
「そういう訳では……ないのですが」
しばらく視線を彷徨わせながらも少年は口を開いた。
「私のための名、というならば、ゴウトが呼ぶ名がそれに最も近いのでしょうか」
「へえ、ゴウトが?」
「私につけられた、名前です。葛葉の里の外ではこれを使うよう頂きました」
少年の表情は番号の名を名乗ったときとは違ってわずかながらも柔らかい。おそらくは番号をつけた者とその名を与えた者は別の人物なのだろう。
「それ、俺にも教えてくれるの?」
「そうですね……しかし」
軽く口の端をあげる。本当にわずかに。
「葛葉の者にそれを問うとは、面白い方だ」
言の葉を操り、呪を用いる一族の者。真名を知ることはすなわち相手の心臓をつかむに等しいこと。
鳴海とてそのことは知っている。
「まあ、おじさんも探偵だからねえ」
一瞬の心の弱りを気取られないよう努めて明るく鳴海は話す。
「気になっちゃうのさ」
「そうですか」
「気にしたなら悪い」
「いいえ。お互い様かと」
どきりとして鳴海は顔を上げた。見えるのは窓から入る夕日を浴びる無表情な少年の立ち姿。いつも通り、だ。
「私の名前は、『クズノハ ヤスナ』」
「やすな?」
「はい。『葛葉和那』です。襲名の儀に際するときに名乗りをあげた名はそれなので、私の真名と呼んでも差し支えないかと」
「だったら最初からそれを教えてくれればよかったのに」
「……それも、そうですね」
―――だって、もう二度と呼ばれることのない名だと思っていたから。
―――――
主人公:葛葉 和那 (くずのは やすな)
由来は白狐・葛の葉の夫となった「安部保名(あべのやすな)」から。安直。
主人公にはいくつも名前があるって話です。
襲名したライドウ。
葛葉から与えられたのは番号の名前。何人かいる候補者の一人に過ぎないから通し番号。
葛葉の里で修行中に別につけてもらったのが「和那」。で、これを彼は名前として使っている。
そして葛葉に拾われる前にあった名前。これは本人が覚えていないのです。
ライドウさんは小説が出るらしいから、性格をつかむのはそれが出てからかなあ。それでも参考にする程度ですけど。
割りとすでに固まってはいるんですけどね。大学芋好きって素敵だよライドウさん。